平成
14
主 文
1 処分行政庁が原告に対して平成16年3月26日付けでした同12年4月1日から同13年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち納付すべき消費税額850万4300円を超える部分及び納付すべき地方消費税額212万6000円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。2 処分行政庁が原告に対して平成16年3月26日付けでした同13年4月1日から同14年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち納付すべき消費税額969万7000円を超える部分及び納付すべき地方消費税額242万4200円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。
3 処分行政庁が原告に対して平成16年3月26日付けでした同14年4月1日から同15年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち納付すべき消費税額914万2200円を超える部分及び納付すべき地方消費税額228万5500円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨第2 事案の概要
本件は,処分行政庁が,温泉旅館業等を営む原告に対し,原告が入湯客から受け取った入湯税相当額は,消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の課税標準に含まれるとして,消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったところ,原告が,同相当額は入湯客から入湯税として預かったものであるから消費税等の課税標準に含まれないと主張して,これらの処分の取消しを求める事案である。1 関係法令の定め等
(1) 地方税法
(地方団体の課税権)
2条 地方団体は,この法律の定めるところによつて,地方税を賦課徴収することができる。
(地方税の賦課徴収に関する規定の形式)
3条 地方団体は,その地方税の税目,課税客体,課税標準,税率その他賦課徴収について定をするには,当該地方団体の条例によらなければならない。
2 地方団体の長は,前項の条例の実施のための手続その他その施行について必要な事項を規則で定めることができる。
(入湯税)
701条 鉱泉浴場所在の市町村は,環境衛生施設,鉱泉源の保護管理施設及び消防施設その他消防活動に必要な施設の整備並びに観光の振興(観光施設の整備を含む。)に要する費用に充てるため,鉱泉浴場における入湯に対し,入湯客に入湯税を課するものとする。
(入湯税の税率)
701条の2 入湯税の税率は,入湯客1人1日について,150円を標準とするものとする。
(入湯税の徴収の方法)
701条の3 入湯税の徴収については,特別徴収の方法によらなければならない。
(入湯税の特別徴収の手続)
701条の4 入湯税を特別徴収によつて徴収しようとする場合においては,浴場の経営者その他徴収の便宜を有する者を当該市町村の条例によつて特別徴収義務者として指定し,これに徴収させなければならない。
2 前項の特別徴収義務者は,当該市町村の条例で定める納期限までにその徴収すべき入湯税に係る課税標準額,税額その他条例で定める事項を記載した納入申告書を市町村に提出し,及びその納入金を当該市町村に納入する義務を負う。
3 前項の規定によつて納入した納入金のうち入湯税の納税者が特別徴収義務者に支払わなかつた税金に相当する部分については,特別徴収義務者は,当該納税者に対して求償権を有する。
4 特別徴収義務者が前項の求償権に基いて訴を提起した場合においては,市町村の徴税吏員は,職務上の秘密に関する場合を除くほか,証拠の提供その他必要な援助を与えなければならない。
(2) 川根町税条例(昭和34年7月13日川根町条例5号)
(入湯税の納税義務者等)
141条 入湯税は,鉱泉浴場における入湯に対し,入湯客に課する。
(入湯税の課税免除)
142条 次に掲げる者に対しては入湯税を課さない。
(1) 年齢12歳未満の者
(2) 共同浴場又は一般公衆浴場に入湯する者
(入湯税の税率)
143条 入湯税の税率は,入湯客1人1日について,150円とする。
(入湯税の徴収の方法)
144条 入湯税は,特別徴収の方法によって徴収する。
(入湯税の特別徴収の手続)
145条 入湯税の特別徴収義務者は,鉱泉浴場の経営者とする。
2 前項の特別徴収義務者は,鉱泉浴場における入湯客が納付すべき入湯税を徴収しなければならない。
3 第1項の特別徴収義務者は,毎月15日までに,前月1日から同月末日までに徴収すべき入湯税に係る課税標準額,税額その他必要な事項を記載した納入申告書を町長に提出し,及びこの納入金を納入書によって納入しなければならない。
(入湯税の特別徴収義務者に係る帳簿の記載義務等)
150条 入湯税の特別徴収義務者は,毎日の入湯客数,入湯料金及び入湯税額を帳簿に記載しなければならない。
2 前項の帳簿は,その記載の日から1年間これを保存しなければならない。
(3) 消費税等の計算上における入湯税の扱い
ア 消費税法における定め
消費税法4条1項は,「国内において事業者が行つた資産の譲渡等には,この法律により,消費税を課する。」と規定するところ,同法28条1項本文は,「課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は,課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し,又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし,課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。
以下この項及び次項において同じ。)とする。」と規定し,消費税の課税標準は,「課税資産の譲渡等の対価の額」である旨定めている。
「課税資産の譲渡等」とは「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」のうち,同法6条1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいうから(同法2条1項8号,9号),同法28条1項の「課税資産の譲渡等」には役務の提供も含まれる。
したがって,原告が鉱泉浴場の入湯客に対して提供する役務の対価(入湯料)の額は,消費税の課税標準となる。
イ 消費税法基本通達10−1−11
消費税法基本通達10−1−11(個別消費税の取扱い)は,「法第28条第1項(課税標準)に規定する課税資産の譲渡等の対価の額には,酒税,たばこ税,揮発油税,石油石炭税,石油ガス税等が含まれるが,軽油引取税,ゴルフ場利用税及び入湯税は,利用者等が納税義務者となっているのであるから対価の額に含まれないことに留意する。
ただし,その税額に相当する金額について明確に区分されていない場合は,対価の額に含むものとする。」とし,その本文では,入湯税は消費税法28条1項に規定する課税資産の譲渡等の対価の額には含まれない旨を明らかにしているが,一方,そのただし書では,「その税額に相当する金額」が「明確に区分されていない場合」には,課税資産の譲渡等の対価の額に含まれるものとしている。
2 前提事実(争いのない事実及び該当箇所に併記した証拠等により容易に認められる事実)
(1) 当事者
原告は,平成10年2月19日に,静岡県榛原郡α(以下「α」という。)が発行済株式総数600株のうち540株の株主となって設立されたいわゆる第3セクターの株式会社であり,β温泉「A」及び「B」(以下,両施設を併せて「本件各施設」という。)を管理運営している。
なお,本件各施設は,川根町が設置したものであり,原告は川根町からこれを賃借して,鉱泉浴場等の管理運営等の受託に関する業務(温泉旅館業を含む。)を営んでいる。
原告は,本件各施設に関する入湯税の特別徴収義務者である(川根町税条例145条1項)。
(2) 課税の経緯等
ア 原告は,1平成12年4月1日から同13年3月31日までの課税期間(以下「平成13年3月期課税期間」という。),2同年4月1日から同14年3月31日までの課税期間(以下「平成14年3月期課税期間」という。)及び3同年4月1日から同15年3月31日までの課税期間(以下「平成15年3月期課税期間」といい,これと平成13年3月期課税期間及び平成14年3月期課税期間と併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について,別表「課税の経緯」の各「確定申告」欄記載のとおり,法定申告期限までに申告した(甲7)。
イ 平成16年3月26日,処分行政庁は,原告に対し,本件各課税期間の消費税等について,別表「課税の経緯」の各「更正及び賦課決定」欄記載のとおり,更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした(甲1ないし3)。
ウ 平成16年5月25日,原告は,処分行政庁に対し,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として,異議の申立てをしたが,同年7月7日,処分行政庁は,「申立人は入湯客に対して,発行する書類及び施設における掲載物において,入湯税相当額を明らかにしていません。
なお,川根町が広報紙において入湯税について掲載したことは認められますが,これをもって,申立人が入湯客に対して入湯税相当額を明らかにしたこととはなりませんので」「申立人が売上げから減算した入湯税相当額は,課税資産の譲渡等の対価に含まれることとなります。」などの理由で,原告の異議の申立てをいずれも棄却する旨の決定をした(甲4,5)。
エ 平成16年8月6日,原告は,国税不服審判所長に対し,審査請求をしたが,同17年5月12日,同審判所長は,「本件各施設における掲示物,Aに係る入湯利用券及び浴場ご利用回数券,Bの利用者に発行される請求・領収書にはいずれも入湯税相当額についての表示はなく,明確に区分されているとは認められない。」「したがって,入湯税相当額は課税資産の譲渡等の対価の額に含まれることとなり,入湯税相当額を含めた課税標準に基づいて行われた本件各更正処分はいずれも適法である。」などの理由で,原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした(甲6,7)。
3 争点
原告が本件各施設の利用者から受領した金員には入湯税(又はその相当額)が含まれているところ,その入湯税相当額は,「課税資産の譲渡等の対価の額」(消費税法28条1項)に含まれない(消費税法基本通達10−1−11本文参照)か,それとも,「その税額に相当する金額について明確に区分されていない場合」に当たるので,対価の額に含むものとされる(同通達ただし書参照)か。
4 争点に関する当事者の主張
(被告の主張)
(1) 入湯税の特別徴収義務者である原告は,入湯客から入湯税を徴収する際において,入湯税の額を明示しないまま(のみならず,入湯税が含まれていること自体も明らかにしないまま)入湯税相当額を入湯料に含めて入湯客から領収し,その経理処理においては,入湯税相当額を含む入湯料をそのまま売上勘定に計上した後,入湯税納付時に入湯税相当額を売上勘定から減算して,その減算後の額を基礎として消費税等の課税標準を算出しているのであるから,本件は,「その税額に相当する金額について明確に区分されていない場合」(消費税法基本通達10−1−11ただし書)に当たり,入湯税相当額は対価の額に含まれる。
(2) そもそも,消費税は,物品やサービスの消費に担税力を認めて課される租税であるが,最終的な消費行為そのものを課税対象とするものではなく,その前段階の物品やサービスに対して課税が行われ,税負担が物品やサービスの価格に含められて,最終的には消費者に転嫁されることが予定されている,いわゆる間接消費税である。
そして,各段階の納税義務者と最終的な負担者である消費者が異なることから,他の租税よりもなお一層,転嫁と帰着の透明性が求められる税であるということができる。
消費税法28条1項は,消費税の課税標準となる「課税資産の譲渡等の対価の額」について,「対価として収受し,又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額」と規定しているが,ここでいう「対価として収受し,又は収受すべき」とは,文理上,当事者間で授受し,又は授受することとした対価の額を指すものと解される。
そして,転嫁と帰着の透明性という消費税の基本理念に照らせば,当事者間で授受することとした取引価額は,納税義務者である「課税資産の譲渡等を受ける側」において,課税資産の譲渡等を申し込む際に,その対価として認識している取引価額であると解すべきであるから,課税資産の譲渡等を受ける側において,課税資産の譲渡等を申し込む際に,授受すべき対価の額を認識し得るような表示がされていることを要する。
入湯税は,本来,鉱泉浴場の利用者が納税義務者となっているため,課税資産の譲渡等(役務提供)の対価の一部を構成しないものの,入湯税は条例で定めることにより初めて賦課徴収が可能になるものであり,しかも,その条例の内容は,各地方団体により差異があるのであるから,入湯客は,課税資産の譲渡等を受ける際に,特別徴収された入湯税等の税額が領収書等に明示されない限り,支払った代金に,自身が納税義務者となり,かつ消費税の課税対象とならない入湯税が含まれている(特別徴収された)こと,その金額,及び当該金額を支払うことを認識し得ない。
そのような場合には,入湯客は,いわゆる総額表示の下では,支払った代金全額が課税資産の譲渡等に対して支払うべき対価の額と消費税の合計額であると認識することになるのであるから,当該支払った代金全額の105分の100相当額が消費税の課税標準に該当するのである。
したがって,入湯行為について取引がされる際,その取引に係る対価の額に入湯税が「含まれている旨」及び「含まれている額」が明示されない場合,すなわち入湯税相当額と入湯料とが「明確に区分」されていない場合において,入湯税の納税義務者である入湯客は,入湯税相当額を同税の特別徴収義務者である原告に預けたという認識を持ち得ず,入湯税相当額を含んだ額を当事者間において役務の対価として授受することとした取引価額であるということができるから,当該価額が課税資産の譲渡等の対価の額になる。
また,入湯税の徴収義務者である事業者においても,入湯税額を明示しないまま入湯税相当額を含んだ金額を入湯客から受領し,その金額を預り金勘定等ではなく,売上勘定等に計上した場合には,客観的にみて,上記金額を受領した時点において,入湯税相当額を入湯税の特別徴収として受領したものとみることはできず,売上金として受領したもの,すなわち,入湯税相当額を含んだ金額を受領すべき取引価額と認識していたものとみるほかない。
(3) なお,1消費税創設当時に発行された「改正税法のすべて」(昭和63年,国税庁)と題する書籍によれば,立法担当者(大蔵省主税局税制第二課の職員)の記述として,「課税資産の譲渡の対価の額には,酒税,たばこ税,揮発油税,石油ガス税等が含まれますが,軽油引取税,ゴルフ場利用税,特別地方消費税及び入湯税は,利用者等が納税義務者となっているので,その税額に相当する金額が明確に区分されている場合には,対価の額に含まれません。」と記載されており,消費税の創設当時から,個別消費税の取扱いについては,資産の対価と税額相当額が「明確に区分」されていることが,入湯税相当額等を「課税資産の譲渡等の対価の額」に含めないことの要件とされていたのであり,また,2国税庁課税部消費税室職員が執筆し,同消費税室長が監修した「消費税法基本通達逐条解説」(平成16年版)と題する書籍によれば,消費税法基本通達10−1−11について,「酒税,たばこ税,揮発油税,地方道路税,石油石炭税,石油ガス税の個別消費税は,その課税物件の製造者等が課税物件を製造場等から移出等を行ったことに対し課税され,課税資産の価額の一部を構成するものであることから,消費税の課税標準に含まれることになる。」「一方,軽油引取税,ゴルフ場利用税及び入湯税は課税資産の譲渡等を受ける者が納税義務者となっている。
このため,ゴルフ場等を経営する事業者は,いわゆる特別徴収義務者として納税義務者からこれらの税そのものを特別徴収し,地方公共団体に納付しているにすぎないことから,これらの税相当額は課税資産の譲渡等の対価に該当しないのである。
したがって,これらの税相当額を請求書や領収証書等で相手方に明らかにし,預り金又は立替金等の科目で経理しているときには,課税標準に含まれないこととなる。
本通達は,このことを念のために明らかにしたものである。」と記載されている。
(4) また,消費税法30条1項は,流通段階での税の累積を排除するため,事業者が支出した金額が課税仕入れに係る支払対価に該当する場合には,その課税仕入れに係る支払対価の額を基礎として算出した額を仕入れに係る消費税額として課税標準額に対する消費税額から控除することとしているところ,温泉の経営者等が入湯客から入湯税を徴収する際にその表示をしなければ,入湯客は,入湯税相当額も含む入湯料総額の105分の4が入湯料に含まれる消費税相当額と認識することとなり,仮に,入湯客にとって温泉の利用が課税仕入れに該当する行為であった場合,控除対象仕入税額の対象とならない入湯税も含めて仕入税額控除額の計算の基礎とすることとなる。
ところが,温泉の経営者等の側においては,入湯税を含まない入湯料そのものを「課税資産の譲渡等の対価の額」と認識しているのであるから,入湯税を含まない入湯料の105分の4を消費税として納付することになる。
以上のとおり,温泉の経営者等が入湯客から入湯税を徴収する際に,入湯料のうちに入湯税が含まれていること及びその額を明示しないまま同税相当額を入湯料に含めて入湯客から領収する等の場合においては,前段階の税の累積の排除が適切にされず,国の消費税収入そのものが不当に過小なものとなる。
また,同条7項及び9項によれば,入湯客において,仮に温泉の利用が課税仕入れに該当する場合,温泉の経営者等から入湯客に交付される請求書等には,「課税資産の譲渡等の対価の額」が記載されていなければならず,その「課税資産の譲渡等の対価の額」には,入湯税相当額が含まれていてはならないはずなのである。
したがって,消費税法における上記各規定との整合性を考慮しても,同法28条1項の規定は,消費税法基本通達10−1−11のとおりに解釈すべきであると解される。
(5) 本件各更正処分の額及び本件各賦課決定処分の額(別表「課税の経緯」の各「更正及び賦課決定」欄参照)は,被告の主張する別紙「本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の根拠」記載の額と同額であるから,いずれも適法である。
(原告の主張)
(1) 原告は,入湯客から入湯税を徴収したのであり,入湯税相当額を入湯料に含めて領収したわけではない。
原告は,本件各課税期間の期末には,入湯税額を未払金として計上しており,徴収した入湯税を区分して経理している。
また,入湯税の課税がされるかどうか,課税される場合の税額等は,法令(地方税法及び条例)で定められていることなどからして,鉱泉浴場の事業者に金員を交付する時の入湯客の意思を合理的に解釈すれば,そのすべてを入湯料と認識しているというよりも,鉱泉浴場を利用するに当たって必要な金員全額を交付している(すなわち,その金額さえ交付していれば,入湯に関連し,鉱泉浴場の事業者との関係でいかなる理由に基づいてもそれ以上の金員の交付が求められない。)と認識しているといえる。
(2) 消費税法で規定される消費税は,最終的な消費行為よりも前の各取引段階で物品やサービスに対する課税が行われ,税負担が物品やサービスのコストに含められて最終的には消費者に転嫁されることが予定されている間接消費税であり,しかも,各段階において移転,付与される附加価値に着目して課される附加価値税の性質を有する多段階一般消費税であるから,各取引において附加価値の移転等がある場合は課税の問題が生じるが,附加価値の移転等が生じない場合は理論上は課税の問題は生じない。
入湯税の特別徴収義務者が納税義務者から入湯税を預かる行為は,特別納税義務者である事業者が,地方税法701条の3,701条の4第1項及び条例(本件では川根町税条例145条1項及び2項)に基づく法令上の義務(特別徴収義務)を履行するため,地方団体に代わって入湯税を徴収するだけの行為であり,その事業者の下で新たに国民経済に附加した価値はなく,その移転もない。
消費税法は,役務の提供により,この役務の提供者の下で生じた附加価値が移転するのを捉えて消費税の課税の対象にしているところ,入湯税の徴収については附加価値の移転はなく,入湯税を預かること(徴収すること)は対価を得て行われる行為ではないのであるから,消費税の課税の対象にならない。
消費税法基本通達10−1−11の本文は,このことを確認したいわゆる留意通達である。
(3) 消費税法基本通達10−1−11のただし書は,明確な区分がされていない場合の例外的取扱いを定めているが,本件でこのような例外的取扱いが認められるとすれば,実質的に入湯料と入湯税の区分(算定)が不可能なため,預かった入湯税額分を「課税資産の譲渡等の対価」から除くことができず,適正な消費税の納税ができない場合においてである。
租税法律主義の見地からして,入湯税相当額を請求書や領収書等で区分しない限り同相当額が消費税等の課税標準となるとの解釈を採ることはできない。
原告は,入湯客の人数を集計し,入湯税と入湯料を区別して,入湯税を正確に算出していたのであるから,実質的に入湯料と入湯税の区分(算定)が不可能なため預かった入湯税額分を「課税資産の譲渡等の対価」から除くことができない場合には該当しない。
なお,そもそも通達とは,上級行政庁が法令の解釈や行政の運用指針などについて,下級行政庁に対してする命令又は示達であり(国家行政組織法14条2項),租税法の法源ではない。
さらに,消費税法基本通達を解説した書籍も,執筆者それぞれの個人的な見解に基づくものである。
(4) また,消費税法30条が定める仕入額控除についても,これを直ちに同法28条1項の解釈と関連させることは相当ではない。
入湯税の課税がされるかどうか,課税される場合の税額等は,法令で定められており,入湯客は入湯税を預けていることを認識することができるから,仕入額控除において支障は生じないし,支障が生じるとすれば,それは法令の不知による入湯客側の問題である。
また,実際に,本件各施設の利用者において,仕入税額控除が問題となる件数は少数であると推測される。
なお,本件各施設の開業に先立ち,川根町が行った同業他社9件の視察結果によれば,入湯券上はもちろん,自動利用券販売機(以下「券売機」という。),フロント周辺にも入湯税の表示は1件もなく,視察先からの聴取において,入湯税額表示及び区分経理についての話も一切なかった。
また,原告が入湯券の券売機を発注した業者は,新潟県を中心に多くの券売機を製造し,販売しているが,その券売機で発行する入湯券上に入湯税の表示をしたことは,平成10年当時,1件もなかった。
(5) 以上のとおり,本件各課税期間における消費税等の納付すべき税額等は,原告が確定申告した額と同額であって,入湯税相当額を「課税資産の譲渡等の対価」に含めないことによって消費税等を過少に申告したとはいえないから,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分は違法である。
第3 争点に対する判断
1 証拠(該当個所に併記したもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。(1) 川根町は,平成7年ころから,温泉施設の整備計画を構想し,そのための委員会を設置して,福井県や滋賀県,石川県等に所在する同業他社9件ほどを視察するなどした上,前記前提事実(1)のとおり,発行済株式総数600株のうち540株の株主となって原告を設立し,同10年4月1日には,川根町税条例を改正し,入湯税の税率を,入湯客1人1日について,150円とする旨定めた(川根町税条例143条)。
原告は,同月26日には「B」を,同年7月21日には「A」をそれぞれ開業した。
原告の代表取締役には,川根町の町長が就任することとなっており,川根町の監査委員が原告の例月出納検査を行っているほか,原告と川根町とは,月に1回,温泉経営検討会を開き,また,毎年6月に行われる川根町の町議会の本会議では,入湯税額が明記された原告の経営状態が報告されるなどしている。
(以上,甲23,25,26の1ないし3)
(2) 本件各施設のうち,「A」は,浴場のほか,温泉が引かれたプールやサウナがあるバーデゾーンに分かれていて,施設利用客は,それぞれの利用券を購入するか,浴場とバーデゾーンの両方の施設が利用できる共通利用券を購入して同施設を利用している。
なお,利用券の購入方法には,券売機を利用する方法や,事前に回数券を購入する方法等がある。
また,本件各施設のうち,「B」の利用客は,各コテージに備え付けられた源泉掛け流しの露天風呂又は温泉が引かれた檜風呂を利用することができる。
本件各施設の利用料金等の例は,下記のとおりである(原告の主張によれば,例えば,下記浴場の入館料大人500円のうち,150円は入湯税となる。)。
(以上,乙3ないし6,10)
「A」入館料
浴 場 バーデゾーン 共 通
大 人 500円 700円 1000円
小学生 300円 300円 500円
(入館料はいずれも消費税込み)
「B」1泊料金
通 常 料 金 割 引 料 金
4人棟 2万2000円 1万4000円
5人棟 2万7500円 1万7500円
6人棟 3万3000円 2万1000円
8人棟 4万4000円 2万8000円
(料金はいずれも消費税別)
(3) 原告は,「A」の券売機(2台)の出力票,フロント受付のレジスターの出力票及び同受付で回収した回数券並びに「B」の証票の記載を基に,入湯客数及び入湯税対象利用者数を毎日集計して営業日報に記載し,毎月その数を合計することにより,入湯税額を算出し,本件各課税期間において,毎月15日までに前月分の入湯税を川根町に申告納税していた。
なお,入湯税の特別徴収義務者が毎日の入湯客数,入湯料金及び入湯税額を帳簿に記載しなければならないことは,川根町税条例150条の定めるところであり,また,原告には,入湯税の課税権者である川根町の職員が派遣され,同職員が,入湯税の徴収及び納付を含め,原告の管理運営に当たっていた。
ただし,原告の総勘定元帳では,入湯税相当額が温泉等の利用料に含まれたまま,ひとまとめにして売上勘定に計上されており,入湯税相当額を,入湯税として預り金勘定に計上するなどの区分経理はされておらず,原告は,入湯税の納付時に,上記のとおり算出された毎月の入湯税相当額を売上勘定から減算し(例えば,平成14年10月10日には,「川根町役場入湯税」として504万6900円及び「コテージ入湯税」として9万4200円を各減算している。),本件各課税期間においては,当該減算後の売上勘定の金額を基として,消費税の課税標準額を算出し,消費税等の申告をしていた。
なお,原告は,本件各課税期間の期末には,貸借対照表等において,未払分の入湯税を,未払金として計上していた。
(以上,甲11ないし16,23,25,乙4,6,7)
(4) 川根町は,毎年,本件各施設の利用料と共に入湯税額を川根町の広報誌に掲載している(甲25)。
(5) 「A」の利用客は,平成15年3月分の「β温泉A入館区分別月末集計」(乙9)及び同18年4月4日分の「『C』業務日報」(甲16)によると,α外に居住する者が8割を超える多数を占めている(なお,「B」も,宿泊施設という性質上,その利用客は,やはりα外に居住する者が多数であると推認される。)。
(6) 「A」の利用客は,事前に「入湯利用券」又は「浴場ご利用回数券」を購入して入湯するところ,本件各更正処分に係る調査時点において,そのいずれにも入湯税及び消費税等についての表示はされていなかった。
本件各更正処分に係る調査時点において,「B」の利用者に発行される「請求・領収書」には,入湯税に係る表示がされておらず,消費税等については,入湯税相当額も含めたコテージ利用料を基に計算された消費税等が表示されていた(ただし,原告が保管する「請求・領収書」と同内容の控えには,入湯税課税対象人数が記載されていた。)。
また,Bの受付付近にも,コテージ利用料のうちに含まれている入湯税の額や,入湯税が含まれている旨の表示はされてはいなかった。
さらに,原告が入湯客等に配布していた「営業のご案内」と題する案内書(「A」の入館料や「B」の料金が記載されたもの)にも,入湯税の額や,入館料や料金のうちに入湯税が含まれている旨の表示はされていなかった。
(以上,乙3ないし6,10)
(7) 原告は,本件各更正処分の後,入湯利用券等に「利用料金の中に入湯税150円を含んでおります。」と表示するなどしており,以後,本件各更正処分と同様の課税処分はされていない(乙8)。
2 消費税法28条1項は,「課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は,課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し,又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし,課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。
以下この項及び次項において同じ。)とする。」と規定し,消費税の課税標準は,課税資産の譲渡等の対価の額,すなわち「対価として収受し,又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額」であると定めるところ,「対価として収受し,又は収受すべき」額とは,課税資産の譲渡等に係る当事者間で授受することとした取引価額をいう。
一方,入湯税は,鉱泉浴場への入湯そのものを対象として,入湯客に課される税であり,入湯という消費行為に担税力を認めて課される税であるから,入湯税の納税義務者は入湯客であり(地方税法701条),その徴収方法については,特別徴収の方法によることが定められている(同法701条の3)。
消費税法基本通達10−1−11の本文は,「法第28条第1項(課税標準)に規定する課税資産の譲渡等の対価の額には,酒税,たばこ税,揮発油税,石油石炭税,石油ガス税等が含まれるが,軽油引取税,ゴルフ場利用税及び入湯税は,利用者等が納税義務者となっているのであるから対価の額に含まれないことに留意する。」としているところ,その趣旨は,1酒税,たばこ税,揮発油税,地方道路税,石油石炭税及び石油ガス税の個別消費税は,その課税物件の製造者等が課税物件を製造場等から移出等を行ったことに対し課税され,課税資産の価額の一部を構成するものであること(課税資産の譲渡等を行った事業者が納税義務者となるものであり,これらの税相当額を対価の額,すなわちその譲渡に係る当事者間で授受することとした取引価額に含めて転嫁することが予定されていること)から,消費税の課税標準に含まれることになるが,2軽油引取税,ゴルフ場利用税及び入湯税は課税資産の譲渡等を受ける者が納税義務者となっていることから,ゴルフ場等を経営する事業者は,いわゆる特別徴収義務者として納税義務者からこれらの税そのものを特別徴収し,地方団体に納付しているにすぎず,これらの税相当額は課税資産の譲渡等の対価,すなわちその譲渡に係る当事者間で授受することとした取引価額に含まれないことにある(甲8,20,乙1,2)。
したがって,入湯税の相当額を請求書や領収書等で相手方に明らかにし,また,事業者においても預り金又は立替金等の科目で経理しているときには,取引価額(本件では入湯料)と入湯税額との区別は明確であり,入湯税相当額が消費税の課税標準に含まれないのは当然のことである。
他方,消費税法基本通達10−1−11のただし書は,「ただし,その税額に相当する金額について明確に区分されていない場合は,対価の額に含むものとする。」としているところ,もとより,課税資産の譲渡等に係る当事者間で授受することとした取引価額と入湯税が上記のように請求書や領収書等で明らかにされるなど,外見上,その区別が明白にされていることが望ましいことはいうまでもないが,上記のとおり,入湯税は,その性質上,消費税の課税標準である「課税資産の譲渡等の対価の額」に含まれるべきものではないのであるから,そのように入湯税が本来的に消費税の課税標準となるものではないことに照らして消費税法基本通達10−1−11のただし書を合理的に解釈するならば,請求書や領収書等に入湯税の相当額が記載されているか,事業者において預り金や立替金等の科目で経理しているかといった点のみならず,問題となる税金(本件では入湯税)の性質や税額,周知方法,事業者における申告納税の実情等の諸般の事情を考慮し,少なくとも当事者の合理的意思解釈等により,課税資産の譲渡等に係る当事者間で授受することとした取引価額と入湯税とを区別していたものと認められるときには,消費税法基本通達10−1−11のただし書にいう場合には当たらないものと解するのが相当である。
3 これを本件についてみると,前記認定事実によれば,原告は,入湯客数及び入湯税対象利用者数を毎日集計して営業日報に記載し,毎月その数を合計することにより,入湯税額を算出し,毎月15日までに前月分の入湯税を川根町に申告納税していたのであり,また,原告の代表取締役には,川根町の町長が就任することとなっているところ,川根町における入湯税額は,本件各施設の開業に先立って決定され,さらに,入湯税の徴収や納付等のために川根町から職員が原告に派遣されていたというのであるから,原告において,川根町税条例142条1号によって課税を免除される年齢12歳未満の者を除く利用客から受領する金員のうち,入湯客1人1日について150円は入湯税として徴収し,その余の金員を本件各施設の利用料として収受する意思を有していたことは明らかである。
他方,入湯税の納税義務者となるべき利用客については,まず,比率として少数であるものの,川根町の住民にあっては,川根町が発行する広報誌等において,本件各施設の利用料と共に入湯税額が掲載されていたのであり,また,入湯税額が明記された原告の経営状態が毎年,川根町の町議会で報告されるなどしていたことなどの事情からすれば,川根町の住民である利用客としては,本件各施設の利用料と入湯税150円を合わせた金員を支払って本件各施設を利用していることを知っていたか,又は容易に知り得たものであるから,少なくともその合理的意思としては,入湯税150円を支払う意思を有していたものと認めることができる。
また,本件各施設の利用客のうちα外に居住する者にとっても,原告の経営する本件各施設に係る「β温泉」との名称や,その施設内容等に照らせば,本件各施設を利用することにより鉱泉浴場に入湯することになるという事実を知っていたか,又は容易に知り得たものと認められるところ,確かに,入湯税は,当該地方団体の条例によらなければ徴収することができず(地方税法3条1項),しかも,入湯税の額や課税免除の対象等は各地方団体により異なることがある(乙11の1ないし5)としても,入湯税そのものは地方税法により課すこととされる税であって,一般にその存在が知られているものであり,また,川根町税条例で定められた入湯税の額は150円(同条例143条)であって,地方税法701条の2が標準とする額と同一であること,川根町にあっては,本件各施設の開業に先立って条例をもって入湯税額等を決定し,本件各課税期間を通じ,現在に至るまで特段の変更なく,その定めが通用していること,一般に,鉱泉浴場を利用する者としては,その利用の際に事業者に対して交付する金員をもって,利用料のみならず,入湯税についてもすべて支払ったものと考えるのが通常であることなどを総合勘案すると,α外に居住する利用客の合理的意思解釈としても,所定の(具体的には1人1日について150円の)入湯税を支払う意思を有していたものと認めるのが相当である。
そうすると,本件では,当事者の合理的意思を考慮すれば,その譲渡に係る当事者間で授受することとした取引価額と入湯税を区別していたものと認めることができるから,原告における入湯税の徴収が,消費税法基本通達10−1−11のただし書が想定する場合に該当すると認めることは相当ではない。
なお,前記認定事実によれば,原告は,本件各更正処分に係る調査時点において,「B」の利用者については,入湯税相当額も含めたコテージ利用料を基に消費税等の額を算出していたことが認められるが,そのことは,前記判断を左右するものではない。
4 これに対し,被告は,入湯客が入湯税を支払ったかどうか,その額がいくらであったかを知らなければ,消費税法30条所定の仕入額控除との関係で,税の累積の排除が適切にされず,国の消費税収入そのものが不当に過小なものとなる旨主張するが,本件における入湯客の合理的意思が上記のとおりである以上,仮に入湯客にとって温泉の利用が課税仕入れに該当する行為であった場合であったとしても,控除対象仕入税額の対象とならない入湯税を除いて仕入税額控除額の計算の基礎とすることを期待することができるのであって,上記主張をもって前記の結論は左右されない(なお,本件において実際に被告主張の弊害が生じたことを認めるに足りる証拠はなく,そもそも甲22の1ないし8,甲23等によれば,本件各施設の利用客において仕入額控除が問題となる件数は少数であると推認される。)。
5 結論
以上の次第で,入湯税相当額を消費税等の課税標準額に含めた本件各更正処分は違法であり,したがって,これを前提とした本件各賦課決定処分も違法である。
よって,本件各請求は理由があるからいずれも認容することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
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